「最近、親が些細なことで怒鳴るようになった」 「初対面なのに、いきなり強い言葉をぶつけられた」
高齢のご家族やご利用者の変化に、戸惑っている方は少なくありません。この記事では、高齢者が怒りやすくなる心理的な理由と、その場でできる対処法、そして「病気を疑うべきサイン」を整理してお伝えします。
結論:怒りは「性格」ではなく「サイン」として受け取る
高齢者の怒りへの対処は、次の3点に集約されます。
「どうすれば怒らせずに済むか」よりも、「なぜ怒っているのか」を先に考える。これが遠回りに見えて、いちばん早い対処法です。
高齢者が怒りやすいのはなぜ?
現場でよくある場面「弁当なんかいらん! 持って帰れ!」
配食サービスの初回配達で、玄関先でこう言われることがあります。
「弁当なんかいらん! 持って帰れ!」
杉山 制空ご家族やケアマネジャーからのご依頼で、こちらは名前も伺い、時間も約束して伺っています。それでも、ご本人にとっては「知らない人が、頼んでいない物を持ってきた」という状況になっていることがあるのです。
こうした場面の裏側には、たいてい次のどれかがあります。
- 本人が納得していない……申し込んだのは家族やケアマネジャーで、ご本人は「決められた」と感じている
- プライドが傷つけられたと感じている……「弁当を届けてもらう=自分はもう料理もできない人間だと思われた」と受け取っている
- 不安と警戒……見知らぬ人が家の前に立っている。特に一人暮らしの方ほど、警戒は強くなります
- そもそも聞こえていない……玄関先で早口に説明しても、届いていない
- その日の体調……暑さ、痛み、便秘、寝不足。体がしんどい日は、誰でも余裕がなくなります
つまり、怒りの言葉は「弁当への評価」ではありません。「聞いていない」「勝手に決められた」「まだ自分でできる」という気持ちが、いちばん出しやすい形で出てきたもの、と考えたほうが実態に近いのです。





このとき、こちらが「ご家族から頼まれていますので」「もう代金もいただいていますので」と説明を重ねると、まず事態は好転しません。ご本人にとっては「やはり自分の知らないところで話が進んでいる」という証明になってしまうからです。
高齢者が怒りやすくなる5つの原因
脳の変化で「怒りのブレーキ」が効きにくくなる
怒りや不安といった感情は脳の奥にある扁桃体で生まれ、それを抑える役割を担っているのが前頭葉(前頭前野)です。加齢によって前頭葉の働きが低下すると、このブレーキが効きにくくなり、感情が表に出やすくなります。



また、前頭葉の機能が落ちると「予想外の出来事への対応」が苦手になります。いつもと違うこと=脅威になりやすいため、初対面の相手や、突然の予定変更に強く反応するのは自然な反応ともいえると認識しています。
聞こえにくさ(加齢性難聴)
見落とされがちですが、非常に大きな要因です。
聞き取れないと、人は「無視された」「何か悪く言われた」と感じます。何度も聞き返すことに気疲れし、それが不機嫌さや怒りとして表に出ます。
国立長寿医療研究センターの長期縦断疫学研究(NILS-LSA)をもとにした推計では、高齢者の難聴有病率は次のとおりです。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 65〜69歳 | 43.7% | 27.7% |
| 70〜74歳 | 51.1% | 41.8% |
| 75〜79歳 | 71.4% | 67.3% |
| 80歳以上 | 84.3% | 73.3% |
※「全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率」日本老年医学会誌49巻2号(2012年)より
体の不調・痛み・薬の影響
認知症の症状としての「易怒性」
認知症の行動・心理症状(BPSD)のひとつに「易怒性」があります。急に不機嫌になる、大声を出す、介護を強く拒むといった形で現れます。
つまり易怒性は、周囲の環境や身体の不快感によって強くも弱くもなる症状です。「認知症だから仕方ない」と諦める前に、痛み・便秘・暑さ・音・急かされる場面といった引き金を減らせないかを見直す価値があります。
喪失体験と「役割を失う不安」
定年、配偶者との死別、運転免許の返納、家事ができなくなること。高齢期は「できていたことを手放し続ける時期」でもあります。



「もう自分は必要とされていない」という感覚は、劣等感や孤独感となり、周囲への怒りや攻撃的な態度として表れることがあります。支援を受けること自体が、その人にとっては「敗北の証明」に感じられている・・・この視点を持つだけで、対応はかなり変わると感じており、私も対応時に特に意識しております。
怒りの言葉を、本音に翻訳してみる
| 実際に言われる言葉 | 隠れている気持ち |
|---|---|
| 「弁当なんかいらん!」 | 勝手に決められた/まだ自分でできる |
| 「あんたには関係ない」 | 弱った姿を見られたくない |
| 「何回言わすんや」 | 聞き取れていない/覚えていない不安 |
| 「早く帰れ」 | 知らない人が家にいるのが怖い |
| 「もう放っといてくれ」 | 迷惑をかけている自覚がつらい |
「性格」ではなく「病気」を疑うべきサイン
以下に当てはまる場合は、対応の工夫より先に医療機関の受診をご検討ください。
- 数日〜数週間という短期間で、急に人が変わったように怒りっぽくなった
- 一日の中で状態がころころ変わる。特に夕方から夜にかけて悪化する
- 転倒したり頭を打ったりしてから、1〜2か月の間に様子が変わった
- 発熱、食欲低下、尿の回数や色の変化がある
- 薬が増えた/変わったあとから様子が違う
- 見えないものが見える、物を盗られたと訴える
- 眠れていない、日中うとうとしている
- 体重が減ってきている、何をしても楽しそうでない
| 疑われる状態 | 特徴 | 相談先 |
|---|---|---|
| せん妄 | 急に発症し、症状が一日の中で変動。夜間に悪化しやすい。原因は脱水・尿路感染・肺炎・電解質異常・薬剤など。原因が改善すれば回復が見込める | かかりつけ医/救急外来 |
| 慢性硬膜下血腫 | 頭を打って1か月前後で、ふらつき・意欲低下・認知機能低下。本人が打撲を覚えていないことも。手術で改善することが多い | 脳神経外科 |
| 認知症(易怒性) | 数か月〜年単位でゆるやかに進行。物忘れや段取りの低下を伴う | かかりつけ医/認知症疾患医療センター |
| 高齢者のうつ | 怒りっぽさ、食欲低下、不眠、体の不調の訴えとして出ることが多い | かかりつけ医/精神科 |
| 薬の影響 | 処方変更・追加のタイミングと一致する | 主治医・薬剤師(お薬手帳を持参) |
怒りやすい高齢者に今日からできる対応法7つ
① 言い返さない、訂正しない
② 立ち位置・目線・声のトーンを変える
- 正面に立たず、やや斜めの位置から話す(正面は威圧感を与えます)
- 座っている方にはしゃがんで目線を合わせる
- 低めの声で、ゆっくり、短く(大声より、低音のほうが高齢者には聞き取りやすい傾向があります)
- 後ろから急に声をかけない



しゃがんで目線を合わせるは、私も特に気を付けており、効果的だと思います。


③「聞こえているか」を最優先で確認する
- 静かな場所で、正面から口元が見えるように話す
- 一文を短く。「今日は○○です」と一度に一つだけ
- 早口の言い換えより、紙に大きく書くほうが早いことが多いです
- 補聴器をお持ちなら、電池が切れていないか確認を
聞こえていない人に、対処法は届きません。難聴対応は、あらゆる声かけの前提条件です。
④「どうしますか?」ではなく、選択肢で聞く
判断力が落ちている方にとって、開かれた質問は負担になります。
- ×「昼ごはん、どうしますか?」
- ○「今日はお魚とお肉、どちらにしましょうか」
選ぶ余地を残しつつ、考える負担を減らすのがコツです。
⑤ 決定権を本人に返す言葉を使う
これが、拒否されたときの最大のポイントです。
- 「今日は置いていきますね」→ ×(決定権がこちらにある)
- 「今日は一度お持ち帰りしますね。いるかどうかは、○○さんに決めていただいて大丈夫です」→ ○
「あなたが決めていい」と伝わった瞬間に、抵抗する理由がなくなります。支援を拒む方の多くは、支援そのものではなく、自分が決められないことに抵抗するからです。
⑥ 引く勇気を持つ、人を変える、時間を置く
その場で解決しようとしないでください。5分後、翌日、別の人が行けば、まったく違う反応になることは珍しくありません。感情の高まりは時間で下がります。「今日はここまで」で切り上げるのは、負けではなく技術です。
⑦ 環境の引き金を減らす
暑さ・寒さ、空腹、トイレを我慢している、テレビの音、大勢に囲まれている、急かされている。これらは怒りの引き金になります。声かけを工夫する前に、部屋の温度を下げる。そのほうが効くこともあります。
《番外編》つい言ってしまう言葉と、その言い換え
| つい言ってしまう言葉 | なぜ逆効果か | 言い換え |
|---|---|---|
| 「さっきも言ったでしょ」 | 忘れたことを責められたと感じる | 「もう一度お伝えしますね」 |
| 「そんなこと言わないで」 | 感情を否定される | 「そう思わはるんですね」 |
| 「もう決まったことですから」 | 決定権を奪われた確認になる | 「決めるのは○○さんです」 |
| 「危ないからやめて」 | 能力を否定されたと感じる | 「一緒にやりましょうか」 |
| 「落ち着いて」 | 火に油。興奮を指摘されると強まる | (何も言わず、間を置く) |
サービス導入時に強く拒まれたときの5ステップ
配食サービスに限らず、訪問介護やデイサービスの導入初期にも共通する対応です。
- 名乗る。用件は一文で。「ニコニコキッチンの○○です。お弁当をお持ちしました」だけで止める
- 説得材料を並べない。「ご家族から」「ケアマネさんが」は、この段階では逆効果になりやすい
- 『押し込まない。今日は引く。』玄関を開けてもらえただけでも一歩前進です
- 次のハードルを下げて終わる。「またこの時間に通りますので」程度にとどめ、約束を取りつけない
- ケアマネジャー・ご家族に、事実だけを共有する。「怒られた」ではなく「こう言われた/こういう様子だった」と伝える
一度断られても、終わりではありません。回数を重ねるうち、名前と顔が「知っている人」に変わった時点で、反応が変わることがよくあります。急ぐと、その可能性を潰してしまいます。
家族が疲れきってしまう前に
怒りは、いちばん近い人に、いちばん強く向かいます。他人には穏やかなのに、家族にだけ厳しい・・・これは珍しいことではありません。遠慮がいらない相手だからこそ、感情がそのまま出るのです。
ただし、それを一人で受け止め続けるのは無理があります。介護者の孤立は、共倒れや高齢者虐待の入り口にもなります。以下を心がけてください。
- 自分のせいだと思わない……対応の巧拙ではなく、脳と体の変化が背景にあります
- その場を離れてよい……安全が確保できるなら、いったん距離を取るのは正しい判断です
- 第三者を入れる……家族が言うと反発される内容も、医師やケアマネジャー、配達員の言葉なら通ることがあります
- 記録を残す……いつ、どんな場面で怒ったか。受診時の重要な情報になり、引き金の発見にもつながります
宝塚市・西宮市の相談窓口
| 市 | 窓口 | 内容 |
|---|---|---|
| 宝塚市 | 地域包括支援センター(市内7か所) | 高齢者の総合相談窓口。認知症相談センターも兼ねています |
| 宝塚市 | 高齢福祉課 認知症施策担当 0797-77-0505 | 認知症施策に関する相談 |
| 宝塚市 | 高齢福祉課 高齢者相談一般 0797-77-2068 | 権利擁護・高齢者虐待・一般相談 |
| 西宮市 | 高齢者あんしん窓口(地域包括支援センター) | 担当地域ごとに設置。認知症地域支援推進員も配置 |
| 西宮市 | 地域共生推進課 0798-35-3079 | 高齢者あんしん窓口に関する問い合わせ |
| 西宮市 | 認知症の電話相談 078-360-8477 | 家族の会会員による相談=月・金10〜16時/看護師等による相談=水・木10〜16時(祝日・年末年始を除く) |
| 西宮市 | 健康医療相談ハローにしのみや 0120-86-2438 | 24時間年中無休、無料。「受診すべきか迷う」ときに |



「怒鳴られて困っている」という相談で、まったく問題ありません。むしろ、そこから支援が始まるケースが多い窓口です。
第三者が入ると、関係が変わることがあります
ニコニコキッチン宝塚西宮店は、宝塚市・西宮市で高齢者向けのお弁当をお届けしています。私たちは「弁当ではなく、安心と安全を提供する」を理念に、必ず手渡しでのお届けを基本としています。



初回に強く拒まれることは、実際にあります。それでも私たちが急がないのは、毎日決まった時間に顔を合わせる関係そのものに意味があると考えているからです。ご家族が言えば角が立つことも、外の人間なら受け入れられることがあります。
- 週1回・月1回・短期間だけのご利用も可能です(無理にお勧めはいたしません)
- 店舗調理のため、ムース食・やわらか食も1個からご注文いただけます。配達料は無料です
- 腎臓病対応食(カロリー・たんぱく質・塩分・カリウム・リン制限)にも対応。透析中の方もご利用いただけます
- 手渡し配達による安否確認、買い物代行、服薬確認、雨戸閉めなどにも対応しています
- ケアマネジャー・地域包括支援センターとの連携も行っています
「本人が嫌がるかもしれない」という段階でのご相談も歓迎です。まずは1食から、様子を見ながら始めることができます。ご相談・お申し込み:TEL 0797-72-2535


高齢者が怒りやすいのはなぜ?よくある質問
Q1. 怒鳴られたその場では、結局どうすればよいですか?
言い返さず、6秒待ち、話題と場所を変えるのが基本です。「そうやったんですね」と受け止めて、いったん引いてください。理由を説明したり、説得したりするのは、落ち着いてからです。安全が脅かされる状況であれば、迷わずその場を離れてください。
Q2. 認知症の易怒性なのか、もともとの性格なのか、どう見分けますか?
判断材料は「変化の速さ」と「本人の自覚」です。数か月〜年単位でゆるやかに変わり、物忘れや段取りの低下を伴う場合は認知症の可能性があります。一方、数日で急変した場合はせん妄や身体疾患を疑ってください。もともとの性格が強く出ているだけのこともあり、区別は専門職でも簡単ではありません。地域包括支援センターにご相談ください。
Q3. 本人が病院に行きたがりません。
「認知症の検査に行こう」と伝えると、まず拒まれます。健康診断、持病の定期受診、市の健診など、本人が受け入れやすい理由で受診機会をつくるのが現実的です。事前にかかりつけ医へ家族から状況を伝えておくと、診察の中で自然に確認してもらえます。地域包括支援センターに相談すれば、医療につなぐ支援も受けられます。
Q4. 他人には穏やかなのに、家族にだけ怒るのはなぜですか?
遠慮のいらない相手だからです。外では気を張って抑えている分、その反動が家族に向かうことも少なくありません。**あなたの対応が悪いからではありません。**むしろ「外ではまだ気を張れる」状態を示しているとも読めます。
Q5. 配食サービスを断られたら、諦めたほうがよいですか?
いいえ。初回で断られる方は珍しくありません。決定権をご本人に返す伝え方に変える、時間帯を変える、ケアマネジャーから話してもらう、1食だけ試すなど、打つ手はあります。「頼んでいない物が来た」から「知っている人が来る」に変わると、反応は変わります。
《総括》高齢者が怒りやすいのはなぜ?



「弁当なんかいらん!」と言われたその言葉の裏には、たいてい別の気持ちがあります。その気持ちに手が届いたとき、関係は静かに変わり始めると日々感じながらお弁当を配達しています。









