杉山 制空「アメリカ産のジャガイモがスーパーに並ぶようになるの?」というニュースを目にして、気になっている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、2026年10月時点で、米国産の生食用ジャガイモの輸入解禁は決まっていません。 農林水産省は2026年8月に「米国と検疫措置の協議が必要な病害虫21種」を特定し、手続きは最終段階に入りました。ただし、解禁までには数年かかるとみられており、解禁するかどうか、いつ解禁するかはまだ決まっていません。
この記事では、輸入解禁をめぐる現在の状況と、なぜ産地が強く心配しているのかを、できるだけわかりやすくまとめます。あわせて、ご家庭で知っておきたいポイントもご紹介します。特に大切なのは「買ってきたジャガイモを家庭菜園に植えない」ことと、「外食・惣菜では原産地がわかりにくい」ことの2つです。
米国産ジャガイモの輸入解禁はいつ?今どうなっている?
これまでの経緯
米国産の生ジャガイモについては、これまで次のように段階的に条件が緩められてきました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2006年 | ポテトチップス加工用に限り、期間を限定して輸入を認める |
| 2020年 | ポテトチップス加工用の輸入期間の制限をなくし、通年輸入が可能に |
| 現在 | 米国が、スーパーなどで一般に売られる「生食用」の解禁を求めて協議中 |
加工用の輸入には、厳しい条件がついています。指定された産地のジャガイモであること、植物検疫証明書があること、輸入後すぐに加工工場へ運んで加熱加工することなどです。
2026年8月、病害虫21種を特定
リストには、後ほど詳しくご説明する「ジャガイモシストセンチュウ」「ジャガイモシロシストセンチュウ」のほか、害虫や菌類、細菌、ウイルスなどが含まれています。
輸入解禁の手続きは、大きく3つの段階で進みます。
- 輸入解禁の要請を受け付ける
- 病害虫リスク評価(どんな病害虫が入り込むおそれがあるかを洗い出す)
- 病害虫リスク管理(病害虫ごとに、侵入を防ぐ具体的な対策を決める)
今回の21種の特定で、2段階目が終わりました。今後は3段階目に進み、病害虫ごとの検疫措置の案づくりや有識者への意見聴取を行います。そのうえで、輸入を認める場合の条件を決めることになります。報道では、解禁までには数年かかる見込みとされています。
なぜ協議を続けるのか(WTOのルール)
「心配なら最初から断ればよいのでは」と思われるかもしれません。しかし、日本は世界貿易機関(WTO)の「SPS協定(衛生植物検疫措置に関する協定)」に加盟しています。この協定では、輸入を制限するには科学的な根拠が必要です。また、検疫の手続きを不当に引き延ばしてはいけないことになっています。
産地の反応
ジャガイモの一大産地である北海道では、強い反対の声が上がっています。JA北海道中央会の会長は2026年8月、「断じて容認できない」と述べ、輸入を認めないよう政府に働きかける考えを示しました。北海道知事も受け入れに反対の姿勢を示しています。



9月18日に農林水産省が開いたオンライン説明会でも、「病害虫を100%取り除くのは不可能ではないか」といった懸念の声が相次ぎました。一方で、農林水産省は「病害虫の侵入は許さない」という姿勢で協議に臨むとしていますが大丈夫ですかね?
一番の心配は「シストセンチュウ」という害虫
シストセンチュウとシロシストセンチュウの違い
産地が特に警戒しているのが、「シストセンチュウ」という目に見えないほど小さな線虫(せんちゅう)です。シストセンチュウは植物の根に寄生して栄養を奪い、生育を妨げます。ひどい場合は株が枯れてしまいます。


日本ではすでに2種類が見つかっています。
| ジャガイモシストセンチュウ | ジャガイモシロシストセンチュウ | |
|---|---|---|
| 国内で初めて確認 | 1972年(北海道) | 2015年(北海道網走市) |
| 抵抗性品種 | あり(キタアカリなど) | 栽培されている品種の多くは効かない |
| 対策の難しさ | 抵抗性品種で密度を下げられるが、根絶は難しい | さらに難しく、国が緊急防除を続けている |
ジャガイモだけでなく、トマトやナスも被害を受ける
シストセンチュウが恐れられているのは、ジャガイモだけの問題ではないからです。トマト、ナス、ピーマンなど、同じ「ナス科」の作物にも寄生します。もし地域の畑に広がれば、ジャガイモ農家だけでなく、トマトやナスを育てる農家にも影響が出るおそれがあります。



なお、農林水産省によると、シロシストセンチュウが付いたジャガイモを食べても、人の体に影響はありません。心配されているのは、あくまで「畑への被害」ですと報告されています。
網走市などでは今も緊急防除が続いている
ジャガイモシロシストセンチュウは2015年8月、北海道網走市で国内で初めて確認されました。翌2016年10月から、植物防疫法にもとづく「緊急防除」が始まっています。
緊急防除では、次のような対策がとられています。
- センチュウが見つかった畑では、ジャガイモなどナス科作物の作付けを禁止する
- 「対抗植物」と呼ばれる特別な植物の栽培や、土壌消毒で密度を下げる
- 防除区域でとれたジャガイモや、土の付いた作物の移動を制限する



対抗植物を育てている間、その畑では売るための作物を育てられません。収入が減るなかで防除を続ける農家の負担はとても大きなものになりますので、まさに農家にとっては死活問題ですよね。
「抵抗性品種があれば大丈夫」とは言えない理由
しかし、抵抗性品種ですべてが解決するわけではありません。理由は主に次の3つです。
【ジャガイモ】加工用と生食用は何が違う?
港から工場へ直送する加工用
すでに輸入されているポテトチップス加工用のジャガイモは、輸入後すぐに加工工場へ運ばれ、加熱加工されます。一般の人の手に生のまま渡ることはありません。そのため、病害虫が外に広がるリスクを抑えやすい仕組みです。
家庭に届く生食用は管理が難しい
一方、生食用のジャガイモはスーパーの店頭に並び、各家庭に届きます。どこでどのように使われるかを国が管理することはできません。
ここで心配されているのが、家庭菜園です。芽が出たジャガイモを庭やプランターに植えると、もし病害虫が付いていた場合、その土で増える可能性があります。そこから靴の裏や農具に付いた土を通じて、近くの畑へ広がるおそれがあります。



もちろん、輸入を認める場合には、消毒や検査などの対策が条件になると考えられます。ただし、産地からは「それでも100%は防げないのでは」という声が上がっています。
ご家庭で気をつけたいこと
買ってきたジャガイモは家庭菜園に植えない



ジャガイモの芽が出ると、「もったいないから植えてみよう」と思う方もいらっしゃるかもしれません。家庭菜園が趣味の方なら、なおさらです。
しかし、これは米国産に限らずおすすめできません。食用として売られているジャガイモは、植えるための「種いも」とは違い、病気の検査を受けていないためです。農林水産省や各地のJAも、ジャガイモを植えるときは検査に合格した種いもを使うよう呼びかけています。
ジャガイモを育てたいときは、ホームセンターや園芸店で「種いも」として売られているものを選びましょう。


家庭菜園の土や道具の扱い
シストセンチュウは、土の移動によって広がります。家庭菜園でも、次の点を心がけると安心です。
- 畑や菜園の土が付いた靴や道具は、使い終わったらよく洗う
- 別の場所の土を持ち込んだり、持ち出したりしない
- ナス科の作物(ジャガイモ・トマト・ナス・ピーマンなど)を同じ場所で続けて育てない
外食・惣菜はジャガイモの産地がわかりにくい
スーパーで売られる生のジャガイモには、原産地の表示が義務づけられています。また、遺伝子組み換えのジャガイモを使った場合には、その表示も必要です。
一方、レストランやファストフードなどの外食では、こうした表示の義務がありません。そのため、使われているジャガイモがどこの国のものかを、利用者が確かめにくいのが実情です。
ジャガイモの産地が気になる方は、次のような方法があります。
- スーパーでは、ジャガイモの産地表示を確認して選ぶ
- 外食では、食材の産地を公表しているお店を選ぶ
- 気になるときは、お店に直接たずねてみる
価格は安くなる?国産ジャガイモへの影響
「輸入されれば、ジャガイモが安くなるのでは」と期待する方もいらっしゃるかもしれません。
一方で、外食チェーンや惣菜などの業務用では、少しの価格差でも仕入れ先を切り替えることがあります。そのため、業務用の分野で国産品の需要が減ることを心配する声もあります。
価格への影響は、輸入が認められた場合の条件や、その時の為替などによって変わります。現時点で確かなことは言えません。
食の安全への心配(防かび剤・遺伝子組み換え)
防かび剤について
海外から船で運ばれる農産物は、輸送中にカビが生えないよう、収穫後に防かび剤が使われることがあります。日本では、収穫後に使う防かび剤は「食品添加物」として扱われ、使用基準が決められています。



防かび剤が使われた輸入農産物には、店頭で表示することが義務づけられています。気になる方は、表示を確認するとよいでしょう。


遺伝子組み換えジャガイモについて
米国では、遺伝子組み換えのジャガイモも開発・栽培されています。日本では、遺伝子組み換え食品は国の安全性審査を受けたものだけが流通できます。生のジャガイモやその加工品の一部には、表示の義務があります。



ただし、先ほどご説明したように、外食では表示の義務がありません。気になる方は、産地や食材の情報を公開しているお店を選ぶのが確実です。
《総括》米国産ジャガイモの輸入解禁はいつ?今後の動きを見守りできることから
最後に、この記事のポイントをまとめます。
輸入解禁の議論は、これから数年かけて進んでいきます。新しい動きがあれば、この記事でもお知らせしていきます。
参考資料
- 農林水産省「ジャガイモシロシストセンチュウ対策検討会議の概要」
- 農畜産業振興機構(ALIC)「ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除の実施状況」
- 厚生労働省「ジフェノコナゾールの食品添加物の指定に関する部会報告書」(令和元年)
- 共同通信、日本経済新聞、NHK、マイナビ農業ほか(2026年8〜10月の報道)





