『お米券』の批判が止まらない!自治体4割が拒否した3つの致命的理由

お米券の批判理由

「物価高対策としてお米券を配ります」――そう聞いて、どこか引っかかりを覚えた人は少なくないはずです。

本当にそれで米価は落ち着き、生活は楽になるのでしょうか・・・。

実は、お米券は経済学の基本原則に反した“逆効果”の政策であり、配れば配るほど米価を押し上げてしまう危険性をはらんでいます。さらに、1枚500円のうち約60円が事務コストとして消え、自治体や住民には煩雑な手続きだけがのしかかる「中抜き構造」でもあります。

この記事では、経済メカニズム、税金の使われ方、現場の混乱という三つの視点から、お米券がなぜここまで批判されるのかを解き明かし、その上で世界標準の「本当の解決策」にまで踏み込みます。

目次

『お米券』批判理由①:経済学的に「逆効果」になるメカニズム

供給不足下での需要刺激がもたらす価格高騰リスク

 垂直な供給曲線と価格決定の基本原理

お米券が「愚策」と呼ばれる最大の理由は、経済学の基本原則に反している点にあります。

現在の日本では、減反政策(生産調整)により、お米の供給量は人為的に制限されています。つまり、市場に出回るお米の量は増えない状態――経済学でいう「供給曲線が垂直」の状況です 。

この状態で「お米券」を配るとどうなるでしょうか・・・。

お米を買いたい人(需要)は増えますが、店頭に並ぶお米の量(供給)は変わりません。需要と供給のバランスが崩れると、市場原理により価格は上昇します。つまり、お米券を配れば配るほど、スーパーのお米の値段が上がってしまう可能性が高いのです 。

低所得者支援が逆に負担増を招く皮肉

本来、お米券は「生活の苦しい人を助ける」ための政策です。しかし、券によって米価が吊り上がれば、券をもらえなかった人、券を使い切った後も米を買い続ける人、そしてパンや麺類を主食とする人々にとっては、単なる「米の値上げ」でしかありません 。

結果として、一時的に数千円分の券をもらっても、その後の米価高騰で長期的には損をする可能性すらあります。「助けるつもりが首を絞める」――これが専門家が警鐘を鳴らす「逆効果」のメカニズムです 。

減反政策との根本的な矛盾

供給を減らしながら需要を増やす自己矛盾

さらに深刻なのは、政府が同時に「減反政策」を推進している点です。

減反とは、米の生産量を意図的に減らすことで市場価格を維持・上昇させる政策です 。つまり、政府は一方で「お米の供給を絞って価格を高く保つ」政策をとりながら、もう一方で「お米券で需要を増やす」という、完全に矛盾した行動をとっているのです。

この矛盾は、政策の一貫性の欠如を象徴しています。本来なら、米価を下げたいのであれば減反をやめて増産を奨励すべきです。しかし、それをせずにお米券だけを配るのは、根本原因から目を背けた「付け焼き刃」の対策に過ぎません 。

食料自給率向上という目標との乖離

政府は「食料自給率100%」を目標に掲げています。

しかし、減反で国内生産を減らせば、不足分は輸入米で補うしかなく、自給率は下がる一方です 。お米券はこの矛盾をさらに悪化させます。国内のお米が足りないのに需要だけ煽り、結果として輸入米への依存を強めてしまう・・・食料安全保障の観点からも、この政策は逆行していると言わざるを得ません。


『お米券』批判理由②:税金を食いつぶす「中抜き」構造の実態

1枚500円の券に隠された60円のコスト

印刷・流通・管理にかかる莫大な経費

お米券には、現金給付にはない「隠れたコスト」が存在します。

券を印刷するための費用、全国の自治体や配布先に郵送する費用、加盟店舗を管理するシステム費用、そして使用済み券を回収・換金する事務手数料――これら全てが、券1枚ごとに発生します 。

具体的には、額面500円のお米券1枚に対し、約60円の経費がかかると試算されています 。つまり、500円分の予算を使っても、実際に国民がお米購入に使えるのは440円分だけ。残りの12%は「経費」として消えてしまうのです。この非効率性が、「税金の無駄遣い」「中抜き構造」として厳しく批判されています。

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現金給付との効率性比較

もし同じ500円を現金で銀行口座に振り込めば、振込手数料は数十円程度で済みます。電子マネーであれば、ほぼコストゼロで即座に支給可能です。お米券の60円という経費は、これらと比較して圧倒的に非効率です 。

杉山 制空

福岡市など多くの自治体が「お米券ではなく現金や電子マネーで配る」と決断した背景には、この明確なコスト比較があったのです。限られた予算を最大限に活かすという行政の責任として、合理的な判断だったと言えるでしょう 。

業界団体への利益誘導という構造的問題

JAグループと米穀業界が得る手数料収入

お米券の発行・管理には、全国米穀販売事業共済協同組合やJA全農といった業界団体が深く関与しています 。

これらの団体は、券が流通すればするほど、発行手数料や管理手数料という形で収入を得る仕組みになっています。

杉山 制空

つまり、お米券政策は表向きは「消費者支援」ですが、実態としては特定の業界団体に税金を流す「利益誘導」の側面があるのではないか、という疑念が持たれています 。鈴木農相は「利益誘導ではない」と反論していますが、構造的にそう見られても仕方のない仕組みであることは否定できません 。

​選挙対策と農村票という政治的思惑

さらに政治的な背景として、「農家・農村部の票」を意識した選挙対策という指摘もあります。

減反で米価を高く維持することは、生産者(農家)にとっては収入確保につながります。

一方、消費者は高い米を買わされますが、農村部は自民党の伝統的な支持基盤であり、政治的には「生産者優先」の判断が働きやすい構造があります 。

杉山 制空

お米券は、この「生産者寄り」の政策を維持しながら、消費者の不満を一時的になだめるための「アメ」として機能しているのではないか・・・。こうした見方が、「政官業トライアングル」「利権構造」といった批判を生んでいるのです 。

『お米券』批判理由③:現場無視の政策設計と実務の混乱

自治体と住民にのしかかる事務負担

配布・回収・換金の煩雑なプロセス

お米券を実際に配布する現場では、想像以上の事務作業が発生します。

まず、対象世帯のリストアップ、券の印刷発注、郵送準備、問い合わせ対応、加盟店舗との契約・管理、そして使用済み券の回収と換金処理――これら全てを、限られた人員の自治体職員がこなさなければなりません 。

杉山 制空

特に小規模な自治体では、この負担は深刻です。迅速な支援が求められる物価高対策において、お米券の煩雑な手続きは「遅すぎる」「手間がかかりすぎる」として、現場から強い反発を招きました 。

​使用期限と利用制限がもたらす不便さ

お米券には使用期限が設定されているケースが多く、期限を過ぎれば紙くずになってしまいます 。また、加盟店でしか使えないため、普段利用しない店舗まで足を運ばなければならないケースもあります。高齢者や障害者、移動手段のない住民にとっては、この「使いにくさ」が大きなハードルとなります。

現金や電子マネーであれば、いつでもどこでも自由に使えます。「支援」という名目でありながら、受け取る側に不便を強いる――この本末転倒な状況も、批判の対象となっています 。

「なぜお米だけ?」という根本的疑問

パン・麺類を主食とする世帯への不公平感

日本国内でも、食生活の多様化により、お米を主食としない世帯が増えています。パン、麺類、あるいはグルテンフリー食品を選ぶ家庭にとって、「お米券」はほとんど意味がありません 。

杉山 制空

福岡市長が指摘したように「なぜお米だけ対策なのか」という疑問は、多くの国民が共有するものです 。物価高は米だけでなく、野菜、肉、魚、調味料など、あらゆる食料品に及んでいます。特定の品目だけを優遇する政策は、公平性の観点から問題があると言わざるを得ません。

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【米問題】専門家が提唱する「本当の解決策」とは

世界標準の「直接支払い」制度

農家への所得補償と市場価格の分離

多くの経済学者や農業専門家が提唱しているのが、欧米で広く採用されている「直接支払い(戸別所得補償)」という制度です 。

これは、「市場価格は自由競争に任せて下げ(消費者メリット)、その分減った農家の収入を政府が直接補填する(生産者メリット)」という仕組みです。

杉山 制空

具体的には、減反をやめて農家に自由に増産してもらい、供給が増えることで市場価格を自然に下げます。その結果、消費者は安く米を買えるようになります。一方、農家は価格下落で収入が減りますが、その差額を政府が税金で補償します。これにより、消費者も生産者もWin-Winの関係が実現するのです。

カナダの事例に学ぶ「消費者支援としての農家支援」

カナダの農務省課長は、この制度を「農家支援の形をとった消費者支援」と表現しています。つまり、農家を支えることが、結果的に国民全体に安価で安定した食料を提供することにつながる、という発想の転換です。日本のように、減反で価格を吊り上げて消費者に負担を強いるのでも、お米券で一時しのぎをするのでもなく、税金を使って「安全保障としての食料」を確保する――これこそが、先進国のグローバルスタンダードなのです 。

積極財政による食料安全保障の確立

農業予算への投資が国防につながる理由

食料は単なる商品ではなく、「国防の一丁目一番地」です。日本の米備蓄はわずか半月分しかなく、中国の1.5年分と比較すると、その脆弱さは明らかです 。また、化学肥料の原料や物流インフラを中国に依存している現状は、有事の際に致命的なリスクとなります 。

こうした構造的脆弱性を解消するには、農業への「積極財政」が不可欠です。しかし、日本では財務省が長年農業予算の削減を推進してきた歴史があり、この分野だけが財政出動の対象から外されているのが現状です 。

『お米券』ではなく、構造改革こそが必要

お米券に年間数千億円の予算を使うのであれば、その資金を農家への直接支払いや、農業インフラの整備、備蓄米の拡充に充てるべきです。目先の選挙対策や業界への利益誘導ではなく、10年後、20年後の日本の食を守るための本質的な投資――それが今、私たちに求められています 。

《総括》『お米券』批判理由と解決策

お米券が「愚策」と断じられる理由は、感情論ではなく、明確な経済的・構造的欠陥に基づいています。

本記事の要点を改めて整理します。

【経済的欠陥】
減反で供給が固定されている市場に補助金を投入すれば、価格は必然的に上昇します 。これは経済学の基本であり、低所得者対策としての効果を自ら打ち消すものです。供給を増やさずに需要だけ刺激する――この根本的矛盾が、専門家から「天下の愚策」と酷評される最大の理由です 。

【財政的欠陥】
現金給付に比べて約12%のコストロス(1枚500円に対し60円の経費)が発生し、税金が支援ではなく「経費」として消えます 。配布スピードも遅く、自治体の事務負担も膨大です。実際に多くの自治体がこの非効率さを理由に配布を拒否しました 。

【政治的欠陥】
根本的な「食料安保」や「農業の自立」よりも、業界団体への利益誘導や選挙対策が優先されている疑いが強く、政策としての正当性が欠如しています 。お米券の発行・管理で利益を得る業界団体、農村票を固めたい政治家――この構図が、国民不在の政策を生んでいます。

【真の解決策】
日本が目指すべきは、欧米で実証済みの「直接支払い制度」です 。減反を廃止して供給を増やし、市場価格を下げ、その分を政府が農家に直接補償する。これにより、消費者は安く米を買え、農家は安定した収入を得られる。両者がWin-Winになる、この合理的な仕組みこそが、グローバルスタンダードなのです。

【私たちにできること】
お米券問題は、日本の食料政策の縮図です。目先の票や利権のために、国民の生活と国家の安全保障が犠牲にされている――この構造を変えるのは、私たち有権者の声です。

  1. この記事をSNSでシェアし、問題を可視化する
  2. 地元の議員に「直接支払い制度」の導入を求める
  3. 選挙で、食料政策を真剣に考える候補者を選ぶ

食料は国防の一丁目一番地です 。中国に化学肥料も物流も依存し、備蓄米はわずか半月分という脆弱な現状を、これ以上放置してはいけません。

お米券という「目くらまし」に惑わされず、日本の食の未来を守るための本質的な政策転換を、今こそ求めていきましょう。

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