たんぱく調整食とは?目的・不足栄養など徹底解説

カロリー調整食

「たんぱく調整食」―この言葉に、どこか「美味しくない」「我慢の食事」というネガティブなイメージを持っていませんか?

杉山 制空

実は、最近のたんぱく調整食は大きく進化しているんですよ。

治療のための食事であることはもちろん、美味しさや満足感も追求され、日々の食生活を豊かにしてくれる心強い味方になりつつあるのです。

この記事では、たんぱく調整食がなぜ必要なのかという目的から、上手に付き合っていくためのコツ、不足しやすい栄養を補う賢い方法まで、あなたが前向きに食事療法を続けるための情報を凝縮しました。

食事制限のストレスを減らし、美味しく治療を続けるための新しい扉を開いてみましょう。

目次

たんぱく調整食とは?基本を徹底解説

そもそも「たんぱく調整食」って何?

腎臓を守るための特別な食事

「たんぱく調整食」と聞いても、具体的にどんな食事なのかイメージが湧かない方も多いかもしれませんね。

たんぱく調整食とは、主に腎臓の機能が低下した方のために、食事に含まれるたんぱく質の量を厳密にコントロールした治療食の一種です。

私たちの体は、たんぱく質をエネルギーとして利用した後、老廃物(尿素窒素など)を生成します。健康な腎臓であれば、この老廃物を問題なく尿として体外へ排出できます。しかし、慢性腎臓病(CKD)などで腎機能が低下すると、この排出能力が落ちてしまい、体内に老廃物が溜まってさまざまな不調(尿毒症症状)を引き起こす原因となります。

そこで、老廃物の元となるたんぱく質の摂取量を制限することで、腎臓への負担を軽くし、機能の低下を緩やかにすることが、たんぱく調整食の最大の役割です。

単にたんぱく質を減らすだけでなく、必要なエネルギーはしっかり確保するなど、専門的な栄養管理のもとで設計された、まさに「腎臓を守るための特別な食事」なのです。

他の栄養管理食(エネルギー調整食・塩分調整食)との違い

栄養管理が必要な方向けの食事には、「たんぱく調整食」の他に「エネルギー調整食」「塩分調整食」があります。これらは目的によって明確に区別されています。

「エネルギー調整食」は、主に糖尿病や肥満の方向けに、1日の総摂取カロリーを適切に管理することを目的としています。一方、「塩分調整食」は、高血圧や心臓病、腎臓病などでむくみや血圧上昇が問題となる場合に、食塩の摂取量を制限するための食事です。

たんぱく調整食は、これらの中でも特にたんぱく質の制限に焦点を当てていますが、実際には複数の要素を同時に管理することがほとんどです。

杉山 制空

例えば、腎臓病の食事療法では、たんぱく質制限と同時に塩分制限も行われますし、エネルギーが不足しないようにカロリー計算も重要になります。つまり、たんぱく調整食は、たんぱく質を主軸に置きつつも、エネルギーや塩分、さらにはカリウムやリンといった他の栄養素もバランス良く調整された、より専門的で複合的な栄養管理食と位置づけられているのです。

たんぱく調整食の栄養基準

1食あたりのたんぱく質量(10g、15gなど)

たんぱく調整食の最も重要な基準は、1食あたりに含まれるたんぱく質量です。

これは患者さんの病状や進行度、体重などによって医師が指示を出します。市販されている冷凍宅配弁当などでは、この指示に合わせて選びやすいように、たんぱく質量が明確に規格化されています。

杉山 制空

例えば、「たんぱく質10g調整食」や「たんぱく質15g調整食」といった表記が一般的です。これは1食あたりの目標値を示しており、1日3食利用すれば、1日の総たんぱく質量を30gや45gにコントロールできる計算になります。医師から「1日のたんぱく質は40g以下に」といった指示が出ている場合、どの調整食を選べば良いかが分かりやすくなっています。この厳密な数値管理こそが、自己流の食事制限との大きな違いです。毎食自分で食材のたんぱく質量を計算するのは非常に大変ですが、規格化された調整食を利用することで、誰でも手軽に正確な食事療法を実践できるのが大きなメリットです。

エネルギー・塩分・カリウム・リンの基準値

たんぱく調整食は、たんぱく質だけを制限すれば良いというわけではありません。

特に腎臓病の食事療法では、他の栄養素の管理も極めて重要です。

まず「エネルギー」。たんぱく質を制限すると、食事全体のボリュームが減り、エネルギー不足に陥りがちです。エネルギーが不足すると、体は筋肉を分解してエネルギー源にしようとします。これは筋肉量の減少を招くだけでなく、筋肉が分解される際にも老廃物が発生し、かえって腎臓に負担をかけることになります。そのため、たんぱく調整食では1食あたり300kcal以上のエネルギーを確保できるよう設計されています。

次に「塩分」。塩分は血圧を上げ、腎臓にさらなる負担をかけるため、1食あたり2.0g未満など厳しく制限されます。さらに、腎機能が低下すると排泄しにくくなる「カリウム」や「リン」も管理対象です。

これらが体内に溜まると、不整脈や骨のもろさといった合併症を引き起こすため、それぞれの含有量も基準値以下に抑えられています。

なぜ必要?たんぱく調整食の目的と対象者

たんぱく調整食が推奨される主な疾患

慢性腎臓病(CKD)との関係

慢性腎臓病(CKD)は、たんぱく調整食の最も代表的な適応疾患です。

CKDとは、腎臓の機能が3ヶ月以上にわたって低下した状態を指し、ステージG3以降では特に食事療法が重要になります。CKDが進行すると、腎臓がたんぱく質の代謝産物である尿素窒素を十分に排出できなくなり、これが血液中に蓄積して尿毒症症状を引き起こします。たんぱく質制限により、この老廃物の発生を減らすことで、腎機能の低下スピードを遅らせることができるのです。

糖尿病性腎症への適用

糖尿病の合併症として発症する腎症(糖尿病性腎症)でも、腎機能低下が進行した場合にはたんぱく質制限が必要となります。糖尿病性腎症では、高血糖による腎障害に加え、たんぱク尿が見られるため、単なる血糖コントロールだけでなく、食事療法による多角的なアプローチが重要です。

血液透析中や肝疾患のケース

血液透析を受けている患者さんの場合、透析は本来腎臓が持っている働きを完全に補ってくれるわけではありません。より良い状態を保つためには、透析を開始しても食事に注意することが重要です。

患者自身の腎臓の残存機能の状態により、食事療法の詳細は異なります。また、肝臓病(特に肝硬変非代償期や肝不全)では、体に必要な栄養素の合成や貯蔵が十分にできなくなり、栄養状態が悪化して病気の進行につながります。非代償性肝硬変になると、脳症のある場合にはたんぱく質の制限が必要となり、浮腫・腹水のある場合には塩分制限を行う場合があります。

【たんぱく調整食】食事療法で目指す3つのゴール

腎機能の低下進行を遅らせる

保存期CKD治療の目標は、腎機能の低下を防ぎ尿毒症症状の発症を抑えて末期腎不全に至るのを阻止することにあります。たんぱく質制限は糸球体過剰濾過を抑えて腎機能の低下を抑制する可能性があります。CKD診療ガイドラインでも「腎臓病の進行を抑制するためたんぱく質摂取量を制限することを推奨する」と明記されており、これは科学的根拠に基づいた重要な治療方針です。

尿毒症症状を抑え、体への負担を減らす

1960年代から、たんぱく質制限は尿毒症の原因となる窒素代謝物の産生を抑制することにより、尿毒症の発症を抑え延命効果を有することが知られています。老廃物が蓄積すると、疲労感、食欲不振、吐き気、頭痛、皮膚のかゆみなど、さまざまな不快な症状が現れます。たんぱく調整食を実践することで、これらの症状の軽減と予防が期待できます。

病状を安定させ、QOL(生活の質)を維持する

たんぱく質の適切な制限により、腎臓に負担をかけないようにして病気の進行を遅らせることができます。食事療法で腎機能そのものが治るということはありませんが、腎機能低下の進行を遅らせることが可能です。最も重要なのは、この食事療法を長く続けることで、患者さんが自分らしい生活を続けられるようにすることです。病状が安定していれば、仕事や趣味、家族との時間も充実させることができます。

たんぱく調整食で不足しやすい栄養素と賢い補い方

エネルギー不足を防ぐには?

「高カロリー・低たんぱく」を実現する食材選び

たんぱく調整食で最も気をつけるべきことが、「エネルギー不足」です。

たんぱく質を制限すると、食事全体のボリュームが減り、自動的にエネルギー不足に陥りやすくなります。これを防ぐために重要なのが、「高カロリー・低たんぱく」の食材を意識的に選ぶことです。

具体例としては

  • 油類:植物油(オリーブオイル、なたね油)、MCTオイル(消化吸収が良い)
  • 炭水化物:粉飴(砂糖より多く使用可能)、片栗粉を使ったデザート
  • 低たんぱく米:たんぱく質を大幅に削減した専用米
  • 砂糖・飴類:間食としての活用

エネルギー補給補助食品の活用法

最近では、たんぱく調整食向けの補助食品が多く市販されています。

杉山 制空

例えば、手軽にエネルギーを補給できる栄養ゼリーや、忙しい時の間食に最適な栄養飲料、医療機関から処方される高カロリー食品などがあります。これらを活用することで、自分で毎回の食事計算をする負担を軽減できます。

不足しやすいビタミン・ミネラル

制限で失われがちな水溶性ビタミン(B群・C)

調整食では野菜や果物の制限も加わるため、ビタミンB1・B2・B6・B12、葉酸、ビタミンCが不足しがちです。これらが不足すると、疲労感の増加や感染症への抵抗力低下につながります。補い方としては、透析患者用のビタミンミネラル複合サプリメントの活用や、個別の水溶性ビタミン補充を医師と相談して検討することが有効です。

鉄・亜鉛・カルシウム不足への対策

鉄欠乏性貧血、創傷治癒遅延、骨代謝異常を避けるためにも、これらのミネラルは十分に補充する必要があります。補い方としては、鉄剤・亜鉛剤などの内服薬の使用、カルシウム強化低たんぱく調整米の利用、マグネシウム含有のサプリメントの活用などが挙げられます。

杉山 制空

医師の指示に基づく血液検査で定期的にモニタリングすることも重要です。

質を保つための必須アミノ酸と良質な脂質

必須アミノ酸製剤の重要性

たんぱく質全体を減らすと必須アミノ酸不足に陥りやすく、免疫機能低下や創傷治癒遅延のリスクがあります。

必須アミノ酸製剤は、「少量で必要なアミノ酸をバランスよく補給できる」という点で、たんぱく調整食との相性が非常に良いです。医師の指示のもとで、腎臓病食向けの必須アミノ酸配合製剤や、低たんぱく用の高品質なプロテインパウダーの活用を検討してください。

オメガ-3脂肪酸を上手に取り入れるコツ

たんぱく質制限による脂肪摂取不足を補うと同時に、抗炎症作用や心血管保護効果も期待できます。

杉山 制空

実践方法としては、イワシやサバ缶などの青魚の積極的摂取、ドレッシングなどに使用するえごま油、調理油として取り入れる亜麻仁油などがおすすめです。

実践!たんぱく調整食の始め方と続け方

主食の工夫が成功のカギ

たんぱく質調整米・でんぷん米とは?

たんぱく調整食では、主食を特別な「たんぱく質調整食品」に置き換えることが基本となります。

「たんぱく質調整米」は、一般の米からたんぱく質を除去したもので、除去の割合によりたんぱく質量が調整されています。通常のご飯と比べて、たんぱく質を1/5~1/10に削減できます。「でんぷん米」は、コーンスターチや小麦でんぷんを原料とし、米の形に成形したもので、原料に米は使用されていません。低たんぱくという点で最も優れていますが、風味が異なるため、慣れに時間がかかる場合もあります。これらの調整食品は洗米不要で、たんぱく質を抑えながら主食の量を維持できるため、満足感を保ちながら治療食を続けられます。

低たんぱくパン・麺類でおいしくアレンジ

主食を米だけに限る必要はありません。低たんぱくの専門製品も充実しています。

杉山 制空

例えば、通常の食パンよりたんぱく質を1/25に削減した「低たんぱくパン」、約1/40に削減した「低たんぱくうどん」、日常の食卓に取り入れやすい「低たんぱくパスタ」などがあります。これらを上手に活用することで、食事の多様性が保たれ、長く継続できる食事療法につながります。

【たんぱく調整食】便利な『配食サービス』の活用術

冷凍宅配弁当のメリット・デメリット

たんぱく調整食は、病院での入院食だけでなく、在宅向けの配食サービスとしても提供されています。

冷凍タイプが主流で、電子レンジで温めるだけで食べられ、容器は使い捨てなので後片付けも簡単です。メリットとしては、栄養計算の手間がない、毎日異なるメニューで飽きない、調理の時間短縮、厳密な栄養管理が実現できるなどが挙げられます。一方、価格が一般的な食事より高い場合がある、味の好みが分かれることがある、配送エリアに制限がある場合があるといったデメリットもあります。

【たんぱく調整食】ニコニコキッチン宝塚西宮店

おかずのみ 797円(税込み)ご飯付き 880円(税込み)

たんぱく調整食

1日1食から始める手軽な導入方法

たんぱく質を抑えた食事の献立を考えたり、毎食栄養計算を行うのは大変なため、まず1日1食を「たんぱく調整食」に置き換えることから始めるのがおすすめです。

杉山 制空

例えば、朝食はいつも通り(家族の食事に合わせる)、昼食は宅配のたんぱく調整食に切り替え、夕食はいつも通り(ただし塩分は控えめに)といった方法です。このように段階的に導入することで、体も心も無理なく対応でき、食事療法が長続きします。

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たんぱく調整食に関するよくある質問(Q&A)

Q1. たんぱく調整食を自己判断で始めても大丈夫ですか?

A1. 絶対にやめてください。たんぱく調整食は、病気の治療を目的とした専門的な食事療法です。たんぱく質の制限量は、患者さん一人ひとりの病状、腎機能の程度、年齢、体重などによって細かく決められます。不適切な制限は、かえってエネルギー不足や栄養失調を招き、筋肉量の低下や体力の消耗につながる危険性があります。必ず医師や管理栄養士の診断と指導のもと、ご自身に合った適切な量の調整食を選ぶようにしてください。

Q2. たんぱく調整食は、普通の食事と比べて味が薄くて美味しくないイメージがあります…

A2. 確かに塩分が制限されているため、一般的な食事に比べると薄味に感じるかもしれません。しかし、最近のたんぱく調整食は、美味しさにも非常にこだわって作られています。出汁の風味を活かしたり、香辛料や香味野菜を上手に使ったりすることで、塩分が少なくても満足感のある味わいを実現しています。また、和食・洋食・中華などメニューも豊富で、日替わりで飽きずに続けられる工夫がされています。まずは一度、宅配サービスのお試しセットなどを利用してみることをお勧めします。

Q3. 家族と同じ食事はもうできないのでしょうか?

A3. すべてを別にする必要はありません。例えば、ご家族の食事を作る際に、味噌汁は出汁を効かせて味噌の量を減らし、ご自身の分だけ先に取り分ける、煮物は薄味で作り、ご家族は後から調味料を足すなどの工夫ができます。また、主食をご自身の分だけ「たんぱく質調整米」に変え、主菜や副菜は宅配のたんぱく調整食を利用し、汁物だけ家族と同じものを薄味で楽しむ、という方法もあります。完全に食卓を分けるのではなく、上手に調整食を取り入れながら、家族との食事の時間を楽しむことは十分に可能です。

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《総括》たんぱく調整食とは?目的・不足栄養など徹底解説

たんぱく調整食は、主に慢性腎臓病などで腎機能が低下した方向けに、腎臓への負担を減らすために設計された治療食です。1食あたりのたんぱく質量を厳密にコントロールしながら、エネルギー、塩分、カリウム、リンなどの栄養素も適切に管理されています。

この食事療法の主な目的は、腎機能の低下スピードを緩やかにすること、尿毒症症状を抑えること、そして病状を安定させ生活の質を保つことの3点です。

しかし、たんぱく質を制限すると、エネルギーや必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルが不足しやすくなるため、補助食品やサプリメント、特別な食材を上手に活用することが重要です。

実践にあたっては、自己判断は絶対に禁物です。

必ず医師や管理栄養士の指導のもとで始めてください。最近では美味しくて便利な冷凍宅配サービスも充実しており、1日1食からでも手軽に取り入れられます。

完璧を求めすぎず、まずは「続けること」を目標に、無理なく食事療法に取り組むことが成功の鍵となります。

食事療法は長期間の継続が治療効果を得るために重要です。正しい知識を身につけ、専門家や便利なサービスを頼りながら、自分らしい生活を続けていきましょう。

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