海外旅行の航空券を予約すると、料金に「国際観光旅客税」という項目が含まれているのを見たことはありませんか?これがいわゆる「出国税」で、日本を出国する際に1人1,000円が徴収される税金です。
ところで、世界には「入国税」を導入している国もあるのに、なぜ日本には入国税がないのでしょうか。
そして、出国税と入国税、何が違うのでしょうか。 実は、この2つの税金には明確な違いがあり、課税のタイミングも対象者も異なります。
さらに、現在政府は出国税を3,000円に引き上げることを検討しており、「オーバーツーリズム対策なら、訪日外国人から取る入国税の方が筋では?」という議論も巻き起こっています。
この記事では、入国税と出国税の違い、なぜ日本が入国税を導入していないのか、そして最新の議論まで、わかりやすく解説します。
入国税と出国税の決定的な違いとは?

「出国税」の基本:日本人も払う税金の正体
この税金は、航空券や乗船券の代金に上乗せされる形で自動的に徴収されるため、支払っている実感がない人も多いかもしれません。
この制度により、政府は年間400億から500億円の税収を確保しており、2024年度は過去最大の524億円に達する見込みです。
この税金の目的は、日本の観光インフラを整備し、より快適な旅行環境を作るための財源確保です。
具体的には、空港の顔認証ゲート導入、無料Wi-Fiの拡充、文化財の多言語解説、国立公園の魅力向上などに使われています。
「入国税」とは?日本にこの制度は存在する?
つまり、2つの税金の違いは明確です。
「入国税」は外国に入るときに払う税、「出国税」は自国を出るときに払う税という違いがあります。
支払いのタイミングと方法の違い
入国税と出国税では、支払いのタイミングも異なります。
入国税は入国時や到着空港で支払うのが一般的です。一方、出国税は出国時に支払いますが、日本の場合は航空券に含まれることがほとんどです。
なぜ日本は「入国税」ではなく「出国税」を取るのか?

出国税の目的は「観光先進国」の実現
日本政府が出国税(国際観光旅客税)を導入した最大の目的は、「観光立国」を実現するための財源確保です。
- ストレスフリーで快適な旅行環境の整備(例:空港の顔認証ゲート導入、無料Wi-Fiの拡充)
- 日本の多様な魅力に関する情報発信の強化(例:文化財の多言語解説)
- 地域文化を生かした観光資源の整備(例:国立公園の魅力向上)
「入国税」を導入しない背景にある考え方
では、なぜ訪日外国人観光客を主な対象とする「入国税」を導入しないのでしょうか。
これにはいくつかの理由が考えられます。一つは、徴収方法の課題です。
出国税は航空券に上乗せする「オンチケット方式」で効率的に徴収できますが、入国税を導入する場合、空港での徴収手続きが煩雑になり、入国時の混雑をさらに悪化させる懸念があります。
また、入国税の導入は「日本は観光客を歓迎していない」というネガティブなメッセージとして受け取られる可能性もゼロではありません。日本は「観光立国」を掲げて訪日外国人の誘致に力を入れてきた経緯があり、入国時に税金を課すことが、その方針と矛盾するという判断があったと考えられます。
これらの理由から、政府は出国するすべての人から徴収する「出国税」という形を選んだと考えられます。
専門家が指摘する「入国税」という選択肢
しかし、経済アナリストの森永康平氏や国民民主党などからは、より論理的な代替案として「入国税」が提唱されています。
入国税の最大の利点は、オーバーツーリズム対策という目的に完全に合致している点にあります。
現在、政府は出国税を3,000円以上に引き上げることを検討していますが、その理由として「オーバーツーリズム対策の財源確保」を掲げています。しかし、この税金が外国人観光客だけでなく、海外旅行や出張に出かける日本人にも課されるという点で、専門家から「もっと的を射た方法がある」との指摘が上がっています。
世界の「入国税」「出国税」事情はどうなってる?
事実上の「入国税」を導入している国々
「入国税」という名称でなくても、多くの国がビザ免除プログラムの申請料や観光税といった形で、入国する外国人から事実上の税金を徴収しています。
これらの国々では、入国する外国人観光客を対象に税や手数料を徴収することで、観光管理や環境保全、インフラ整備のための財源を確保しています。
世界の「出国税」ランキング:日本は高い?安い?
出国税も多くの国で導入されています。金額は国によって様々です。
杉山 制空こうして見ると、日本の出国税1,000円は、他国と比較して必ずしも高額ではないことがわかります。むしろ、国際的には比較的低い水準に位置していると言えるでしょう。ただし、現在検討されている3,000円への引き上げが実現すると、他国と比較しても中程度の水準になります。
【2025年最新】日本の出国税はどうなる?引き上げの動き
なぜ引き上げが検討されているのか?
政府・与党内で、出国税を現行の1,000円から3倍の3,000円以上に引き上げる案が検討されています。その大きな理由は、深刻化する「オーバーツーリズム(観光公害)」対策の財源を強化するためです。
【出国税】日本人への影響と政府の対策案
出国税が引き上げられると、海外旅行や出張に行く日本人の負担も増えることになります。



しかし、専門家はこの対策の効果は限定的だと指摘します。なぜなら、パスポート手数料は5年や10年に一度の支払いですが、出国税は海外へ行くたびに毎回支払う必要があるためです。結果として、一度の手数料割引という「アメ」に対し、海外渡航のたびに課される「ムチ」の負担がはるかに上回るため、実質的な負担軽減策としては機能しづらいのです。頻繁に海外へ行く人にとっては実質的な負担増は避けられないでしょう。この引き上げについては、2026年度の税制改正で具体的な議論が進められる見込みです。
【出国税】政策の矛盾点
経済アナリストの森永康平氏は、政府が掲げる「オーバーツーリズム対策」という理由は、後から付けられた便利な口実に過ぎないのではないかと指摘しています。森永氏が導き出す結論は、政府の本当の狙いは「単純に増税したいだけ」ではないか、というものです。
なぜ「入国税」ではなく「出国税」の方が都合が良いのか。
それは、財政当局の視点から見ると、「出国税」がより強力な歳入ツールだからです。


出国税の免除対象者と特例
どんな人が免除される?
日本の出国税(国際観光旅客税)には、いくつかの免除対象者が定められています。
マイル特典航空券でも出国税はかかる?
マイルを使った特典航空券で海外に行く場合でも、出国税の支払いは必要です。
特典航空券は航空券代金が無料になりますが、出国税は別途徴収されます。マイル特典航空券を予約する際にも、1,000円(または今後引き上げられた場合はその金額)の出国税が請求されることになります。
このように、出国税は航空券の種類や料金に関わらず、「日本を出国する」という事実そのものに対して課される税金であるため、避けることはできません。
【入国税と出国税の違い】よくある質問(Q&A)
質問1.日本に入国税はありますか?
いいえ、日本には「入国税」という制度は存在しません。日本に入国する際に、関税や消費税などが発生することはありますが、これらは持ち込む品物に対する税金であり、入国という行為そのものに課される「入国税」ではありません。一部自治体がホテル宿泊時に徴収する「観光税(宿泊税)」はありますが、これも入国税とは異なります。したがって、外国人観光客が日本に入国する際に、入国という行為に対して税金を支払う必要はありません。
質問2.出国税は日本人も必ず払うのですか?
はい、原則として日本人も支払う必要があります。出国税(国際観光旅客税)は、年齢や国籍を問わず、飛行機や船で日本から出国するすべての人を対象としています。つまり、日本人が海外旅行や出張に行く場合も、1回の出国につき1人1,000円の出国税が課されます。ただし、2歳未満の乳幼児や、日本での滞在時間が24時間以内の乗り継ぎ客などは免除の対象となります。
質問3.出国税の正式名称は何ですか?
出国税の正式名称は「国際観光旅客税(こくさいかんこうりょかくぜい)」です。2019年1月7日に施行された「国際観光旅客税法」に基づく国税です。一般的に「出国税」という通称で知られていますが、正式名称を覚えておくとニュースなどをより正確に理解できます。この税金は、日本では実に27年ぶりの新税として導入されました。
《総括》入国税と出国税の違いは?
「入国税」と「出国税」は、国を出入りする際に課される税金ですが、その目的と対象者が大きく異なります。
日本では、国に入る際の「入国税」という制度はなく、国を出る際に日本人・外国人を問わず全員から1,000円を徴収する「出国税(国際観光旅客税)」が導入されています。
しかし、最近ではオーバーツーリズム対策を理由に、この出国税を3,000円以上に引き上げる案が浮上しており、今後の動向が注目されます。



海外に目を向ければ、アメリカの「ESTA」やヨーロッパの「ETIAS」のように事実上の入国税を課す国も多く、各国の観光戦略の違いが見て取れます。出国税についても、オーストラリアは約6,000円、韓国は約1,100円と、国によって金額は様々です。日本の出国税1,000円は国際的に見れば比較的低い水準ですが、3,000円に引き上げられると中程度の水準になります。
今後、海外旅行を計画する際には、こうした税金の存在と、今後の制度変更の可能性も頭の片隅に入れておくことが重要です。







